女ボク1

<1>

張りつめた風船を割ったような音が、部室に響き渡った。

シミひとつ無い真新しいリングの中央で、貴也(たかや)は目から火が出たような衝撃を感じながら、それを聞いていた。

ピリピリとした空気の痺れが消える前に、また目の前に真っ赤な塊が迫る。

それが相手のグローブであると認識した瞬間、視界が揺れて小気味好い音が体を駆け抜けてゆく。

信じられなかった。ボクシング部の部長を努める自分が、こんなに一方的に殴られ続けるなんて。

しかも……下級生の女子生徒相手に!

 

——事の起こりは、一ヶ月前。

新学期に合わせた新校舎の落成。それによって貴也たちボクシング部にも、新しい部室が割り当てられる事となった。

オンボロな旧校舎とは違う、最新式の設備を備えた綺麗な部室……ここなら練習にも張りが出る。
 

彼らは期待に胸を膨らませ引っ越しの準備をしていたのだが、それに異を唱える者達があった。

女子ボクシング部の生徒達が、新部室は自分達に使用する権利があると主張してきたのだ。

当然ながら貴也たちは反論した。

『女子ボクなど、どうせボクシングなんだかダイエットなんだかわからない程度の活動だろう。せっかく設備の整った新部室を、そんな奴らに使わせるなんて無駄でしかない』

だが女子達も退かなかった。

『乱暴な男子が使用するより、女子が使った方が長持ちする。新しい設備だってどうせすぐに汚してしまうのだから旧部室で充分だ』

交渉は平行線。だが部室の申請期限の前日、女子ボクシング部からひとつの提案があった。

それぞれの代表者が試合をし、勝った方が新部室を得る事にしよう……と。

貴也達にとって、それは待ちに待った言葉だった。

試合で勝負すれば負けるわけがない。だがそれを男子から口にすれば、弱者を力で押さえ込む無法者だと糾弾されてしまうだろう。

だからその提案は、女子ボクシング部からなされなければいけなかったのだ。当然彼らは、二つ返事でその提案を受諾した。

そして放課後——……互いの部員達が見守る新部室のリングで、男子と女子の戦いの火蓋が切って落とされたのだった。

「ぐっ……!!」

よろめく足をなんとか踏ん張り、貴也は目の前の対戦相手に向き直った。彼より頭ひとつぶん小さな、ボブヘアーが初々しいおとなしそうな少女。

てっきりあちらも部長を出してくると思っていたのに、まさか一年生の女の子が相手だとは。しかも、この女の子は——……。

「ほら梢(こずえ)っ! 止まらないでガンガン行きなさい!」

リングサイドから、女子ボクシング部部長の声が飛ぶ。

「は、はいっ!」

リングに立つ梢は、慌てた様に姿勢を正して再び貴也へとジャブを繰り出した。


——貴也と梢は、以前より顔見知りだった。

とは言っても……それは家が近所なために時折お互いの姿を目にしていた程度で、かろうじて名前を知っている以外に積極的な交流は一切無かったのだが。

貴也から見た梢はいかにも文系少女といった地味な印象で、小さい頃からスポーツに打ち込んで来た彼にはなんら興味を抱かせるものでは無かった。

彼女が自分と同じ高校に入学していたという事すら、今の今まで気付いていなかった程だ。

だが……梢の方は、多少違っていた。

彼女は小さい頃から、元気よく学校へと走ってゆく貴也の姿を見守り続け、いつしかその胸の中にほのかな憧れを芽生えさせていた。

優しくて爽やかで、素敵なお兄さん。

自分には不似合いだと自覚しながら女子ボクシング部に入部したのも、憧れの貴也と少しでも近い位置に居たかったからだ。

だがまさかこんな形で、二人が交わる事になろうとは……。

「ぐっ!!」

梢の拳を鼻っ面に浴びて、貴也は思わずのけ反って声を漏らした。

「あっ……ご、ごめんなさい……」

心底申し訳無さそうな表情を浮かべ、梢は貴也だけに聞こえる程度の小さな声でそう呟いた。

「く、くそっ……!」

その態度が逆に貴也の屈辱を煽り、彼は一切の手加減も無く梢に拳を繰り出す。

だがその攻撃は梢がわずかに身を翻らせただけで、むなしく空を切る結果となった。

「ちゃ、ちゃんとしないと部長に怒られるので……ごめんなさいっ」

「うぐっ!!」

梢の繰り出したパンチが、ガラ空きになった貴也の腹部にめり込む。

重い石を落とされたかのようなボディブローに、貴也は苦悶の表情で身を捩らせた。

リングサイドでは、男子部員達が信じられないというような表情で貴也に檄を飛ばしている。

最初は手加減しているだけだと思っていた彼らも、どうやら本当に貴也が劣勢である事を感じ始めたのだ。

「あっ、相手が顔見知りだからちょっと躊躇してるだけだ。ここからは本気でやるって……!」

半ば自分に言い聞かせる様にギャラリーにそう応えると、貴也は再び拳を繰り出した。

当たった。だが浅い。

ヒットしたと思った瞬間、梢は細やかなステップで攻撃を受け流してしまう。

そしてその隙間を縫って、絶妙なタイミングで彼女の拳がヒットする。

「ぐぅっ! ぐっ! あっ!」

「ごめんなさいっ、あ、また……ごめんなさいっ」

現実が信じられないのは、貴也だけでは無かった。

当の梢自身も、この状況に驚きを隠せないでいた。

「簡単に当たっちゃう……女子部での練習じゃ、全然駄目なのに……!」

梢は他の女子部員と比べて強いわけではない。むしろ新入部員である彼女は、未だ基礎的な練習をしているだけの未熟な立場だった。

それなのに。

「ぐあっ!!」

当たってしまう。

相手にもならないと思っていた自分のパンチが、こんなにも容易く。

確かに女子ボクシング部の練習は大変だったが、それにしてもここまで。

信じられない……いや、信じたくなかった。

彼女にとって、男とは絶対的な力の象徴だった。力では男に絶対敵わない……それが当然だと思い込んでいた。

なのに、目の前の彼は……。

「くそぉぉぉっ!!」

哀れを通り越して、慈しみすら覚えてしまう程の拙い攻撃。

もう、認めざるを得ない。

彼はもう……私より、圧倒的に弱いのだ。

貴也の瞳に、自分の姿が映っている。

今の彼に、自分はどう見えているのだろう?

悲しみにも似た気持ちで、梢はパンチを繰り出してゆく。

小さい頃から憧れていた、近所のお兄さん。

爽やかで、優しくて、かっこよくて……ずっと、遠くから眺める事しか出来なかった。

地味で小さな自分なんかには、永遠に手が届かない存在だと思っていた。

でも。

女ボク1_2 

そんな彼を、自分はいま一方的に殴りつけている——……!

「…………!」

その瞬間、梢は自分の胸の中で何か熱いものが蠢くのを感じた。

自分の拳が貴也にめり込むたび、心臓が高鳴り呼吸が乱れる。

疲労ではない。むしろ拳を振るえば振るうほど、力が漲ってくる。

「うぎっ……!」

「はぁ、はぁ……ごめんなさい、本当に……!」

「ひぐっ……! がっ!」

「あぁ、すみません……はぁっ、また……!」

梢は湧き上がる感情に戸惑いながらも、その言葉とは裏腹に貴也を殴り続けた。

ああ、この気持ち……あれに似ている。梢は思った。

幼い子供の頃、高く積み上げた積み木を一瞬で崩した時に覚えた奇妙な高揚感。長く連なったドミノを倒す瞬間の、胸の高鳴り。

彼女はいま、長年胸の中で育んで来た貴也という偶像を自らの手によって破壊しているのだ。

「ぐ、ほっ……」

ロープ際に追いつめられた貴也が、梢の体に覆い被さった。

「そ、そうそう部長! クリンチで呼吸整えて!」

貴也の足元で、男子部員が声援を送る。

だがすでにその声は、貴也の耳には届いていなかった。

彼の意識はすでに失われかけており、クリンチに見えたこの行動も目の前の危険から逃れようとする防衛本能に過ぎなかった。

貴也に抱きしめられた梢は、その場で彼に体を預けて動きを止めると少し恥ずかしそうに呟いた。

「こんな形で……先輩に抱かれるなんて思ってなかった……」

「ぐ……」

梢のシャンプーの香りが、貴也の鼻腔をくすぐった。

真っ白なTシャツから膨らむほのかな乳房が、貴也の肌に密着している。

「もう……反撃する力も無いんですね。こんなに弱々しい呼吸しか出来なくて……」

「……ぐ、う……」

男子側のリングサイドから、悲痛なほどの声援が飛んでいる。

まるで、この残酷な現実をかき消そうとするかのように。

それは貴也への声援というよりも、神に対する祈りに似ていた。

対して女子側は余裕の笑みを浮かべたまま、リング上の二人を眺めているだけだった。

「可哀想……みんなの目の前で、年下の女の子に負けちゃうなんて」

「…………」

「あ…………」

梢はその時、自分の太ももに当たる物体に気がついた。

それは丁度、貴也の腰の位置……だがファウルカップのような無機質な触感ではなく、体温を感じる。

硬いような柔らかいような、不思議な感触。

「先輩のが……膨らんでる……」

梢はその形を確かめるかの様に、太ももをスリスリと貴也の股間に擦りつけた。

「あっ……ぐ……」

「やっぱりそうですよね、これ……。勃っちゃってたんだ、先輩……私に殴られて、こんなに大きく……」

嬉しいようなガッカリしたような、複雑な感情を覚えながら……梢はその真っ白な太ももを、こっそりと小刻みに震わせ始めた。

「あ、あ、あ……」

「みんなにバレないように、軽くボディも打ちますね……大丈夫、手加減しますから」

梢は腰の入っていないパンチをリズミカルに貴也の脇腹に打ち込む。

同時に彼女の太ももが、肉棒を下から上へ持ち上げる様に何度も往復する。

「は、あ、あぁっ、ぐ……」

「ちんちん、私の脚に押されてビクンビクンいってる……気持ち良くなってるんだ、先輩……」

「あぐっ……!」

その瞬間、貴也の体が梢のボディ打ちとは異なる揺れでビクンと痙攣した。

「あっ、先輩……?」

「梢ーっ! そろそろフィニッシュしちゃってー!」

梢が貴也の変化を感じ取ったのと同時に、女子側のリングサイドから声が投げかけられた。

「あっ、は、はいっ!」

我に返った梢は貴也の股間から脚を離すと、彼の耳元でそっと囁いた。

「終わりに……しますね」

そして、互いの体が二つに分かれた。

支えを失った貴也が、前のめりに倒れ込む。

「あ…………」

ぼやけた貴也の瞳に、少女の姿が映っていた。

登下校の道の途中で時折見かけていた、あの地味な少女が。

頬を赤らめながらこちらを遠慮がちに見つめていた、あの梢の姿が。

瞬間、彼の視界は巨大なグローブで覆い尽くされた。

圧倒的な力の込められた、燃える様に真っ赤な拳。

それが、貴也の見た最後の光景だった。

ズン……という重い音が地面に響き渡った瞬間、リングサイドから黄色い歓声が沸き上がった。

「やったぁー! 梢、ナイスファイト!」

「ほーらね、絶対勝てるって言ったでしょー♪」

立ち尽くす梢の足元で、ローブに跳ね返されて崩れ落ちた貴也が倒れ込んでいた。

まるで、美しい少女に負けを認めて土下座しているかのように。

それはあまりにも対照的で、あまりにも象徴的な光景だった。

貴也の後頭部を一瞥し、梢はリングを降りてゆく。

こうして男子と女子の部室争奪戦は、女子の完全勝利によって幕を閉じたのだった……。






<2>

……誰も居なくなった、夕暮れの旧校舎の裏手。

貴也はひび割れた石段の上で、膝を抱えて座り込んでいた。

「なんで……なんでこんな……」

彼が意識を取り戻したのは、試合が終わって旧校舎の部室に運ばれてすぐの事だった。

貴也を見る、部員達の沈痛な表情。

あのなんともいえない空気を思い出し、貴也は屈辱に身を震わせた。

……負けた。完全に負けてしまった。皆の目の前で。しかも。

そのうえ彼の心をより一層苛んだのは、一人残された部室で着替えようとズボンを降ろした時だった。

汗で湿ったパンツの裏側に、真っ白な精液がべっとりとこびりついていたのだ。

それを見た瞬間、かすかな記憶が貴也の脳裏をかすめた。

梢の拳を受ける度に膨らんでいった、自らの性器。

少女の華奢な身体、清潔な香り、柔らかい太ももの感触。そして……。

屈辱が重くのしかかり、貴也は頭を抱え込んで瞼を硬く閉じた。

……明日からどんな顔をして生きていけばいいんだ。

夢であって欲しい、そうでなければこのまま永遠に時間が止まって欲しいと感じながら。

どれぐらいそうしていただろう。

「あ…………」

いつの間にか、彼の目の前に小さな人影が立っていた。

「ここに……いたんですね」

反射的に顔を上げようとした自分の体を、貴也は寸前で抑え込んだ。

その声の主が、ついさっき自分を叩きのめした少女……梢である事に気がついたからだ。

「……………」

貴也は何の反応も示さなかった。

彼女の姿など、一目たりとも見たくはなかった。

打ちひしがれた自分の姿は、少女から見ればさぞかし哀れに見えるだろう。

本当は今すぐにでもこの場から逃げ出したい。

だが貴也のプライドが、ここから動く事を許さなかった。

早く俺の目の前から消えてくれ……。

貴也はそう願いながら、彫像のようにかたくなに俯き続けていた。

いかにも新入生といった真新しい制服に身を包んだ梢は、そんな彼をしばらく黙って見つめていたが、いつまで経っても反応が無いと分かるといたわる様におずおずと声を掛けた。

「あ、あの……さっきはすみませんでした……体、大丈夫ですか……?」

「……………」

「わ、私の事、知ってますよね? 昔から近所に住んでて……学校行く時とか、時々……」

「……………」

「私……ずっと見てました。先輩が自転車に乗って走ってく姿とか、友達と笑い合ってる姿とか……」

「……………」

「そんな先輩を見る度に、かっこいいなって……私、この高校に入学したのも半分くらいは先輩に憧れてたからで……」

「…………やめろ」

「え…………?」

耐えきれなくなった貴也は、肩を振るわせながらボソリとそう吐き捨てた。

「わざわざそんな事を言いに来たのか? それが俺に何の関係があるって言うんだ」

屈辱、怒り、苛立ち……このまま彼女の声を聞いていると、貴也はありとあらゆる負の感情に押しつぶされてしまいそうだった。

「ち、違うんです。その、なんていうか」

「何も聞きたくない、どっかに行ってくれ……!」

にべもなくそう拒絶すると、貴也は再び硬く口を閉ざした。

沈黙が二人の間を支配する。

だがそれもつかの間……梢は深呼吸をひとつして、言葉を続けた。

「ケジメ……つけなきゃと思って」

「…………?」

「今日試合して……初めて気がついたんです。私の中に居た先輩と現実の先輩は全然別のものだって。私は勝手に先輩を理想の男子の形にして、勝手に憧れてただけで……」

「…………」

「でも、いつまでもそれじゃ駄目ですよね。私はちゃんと現実を見て、自分の気持ちにケジメをつけないと。だから……」

桜の花びらを纏った春風が、二人の間を吹き抜けていった。

黒髪はキラキラと夕陽を浴びて美しく輝き、そのつぶらな瞳は貴也を真っ直ぐに見つめたまま……少女ははっきりとこう言った。

「服……脱いでください」

「はっ…………!?」

あまりにも突拍子の無い、その言葉。

「なっ、なんでそんな事……!」

反射的に顔を上げてしまった貴也の瞳に、少女の顔が飛び込んできた。

花のつぼみのような清廉さと初々しさを湛えた可愛らしい顔が。

聞き間違いや冗談などでは無い。梢の真面目な表情は、それが本気である事をまざまざと物語っていた。

「聞こえ……ましたよね?」

ドクンッ……。

梢の視線に射抜かれ、貴也の心臓が大きく跳ね上がった。

「服を脱いでください」

梢の声が、頭の中で何度も反響する。

その瞬間……何かに操られるかのように、貴也の手が動き始めた。

「え、え、えっ……!?」

貴也は思わず戸惑いの声をあげた。

いつの間にか自分の指先がベルトに回り、カチャカチャと金属音を立て始めている。

……一体何をしているんだ、自分は?

身体が勝手に動く。止めようと思っても、手が言う事を聞かない。

自分の意志とは裏腹に、貴也の両手はどんどんズボンをずり下げてゆく。

「ど、どうして、あ、ああっ……!?」

そうしている間に、黒色のズボンはあっさりと地面に脱ぎ捨てられてしまった。

静かにその様子を眺めていた梢は、念を押す様にさらに言葉を紡ぐ。

「上も下も……全部」

貴也の心臓がドクドクと早鐘を打つ。

手が止まらない。上着もシャツも、同様に剥ぎ取られてゆく。

そして彼の指先は、何の躊躇も無くパンツのゴムにかかった。

「丸裸に……なってくださいね」

「あ、あ、ああっ……!!」

足から抜けたパンツが宙を舞う。

それはパサリと乾いた音を立てて地面に落ち……。

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「う、ううぅっ…………」

とうとう貴也は、一糸まとわぬ全裸となってしまった。

「なんで……こんな……」

梢の言葉通りに動いた体が、裸になった途端ピクリとも動かなくなる。

まるで、少女からの命令に待機しているかのように。

「クスッ……ちんちん、丸出しになっちゃいましたね」

あられもない姿となった貴也を悠々と見下ろしながら、梢はクスリと笑みをこぼした。

「や、やめ……見る、な……」

少女の視線が、自分の股間に集中しているのを感じる。

若い男子の当然の反応として自身の肉体の変化を感じた貴也が、悲痛な声を漏らした。

むくっ……。

次第に、ゆっくりと……ペニスが上を向き始める。

「ああっ……見るな、見るなぁっ……」

むく、むくっ……。

言葉とは裏腹に、貴也のペニスはどんどん天を向いてゆく。

「見るなぁ……あぁ……見る……なぁ……」

それでも梢は股間から目を離さず、冷たい視線で貴也の変化を観察し続けていた。

「頼む……見ないで……」

女ボク2_2 

羞恥に塗れた声でそう漏らした時には、貴也のペニスは完全に勃起を完了してしまっていた。

「くすっ……貴重な勃起シーン、確かに拝見させてもらいました」

ことさらに揶揄するような台詞を口にしながら、梢は思っていた。

……やっぱり、女子部の先輩達が言ってた通りだったんだ。

……女子に敗北した男子は、その瞬間から何でも言う事聞くようになっちゃうって。

……貴也先輩はそんな事ないって思ってたけど……やっぱり、同じだったんだ。

落胆と侮蔑の入り交じった思いを胸に抱きながら、梢はゆっくりと貴也へ近づいてゆく。

動けない貴也に迫り来るその姿は、人間の尊厳を刈り取る美しい死神のようだった。

「股を拡げなさい」

ドクンッ……!

また貴也の心臓が跳ねる。

少女が近づいてくるのに合わせて、足が勝手に持ち上がってゆく。

動きたくないのに。

こんな格好、したいはずないのに。

こうして彼女の声を聞く度に、全身の細胞がフツフツと沸き上がってしまう。

「足が閉じないように、両手で抱えなさい」

「あっ、あ、ああぁ……!」

そして梢が、彼の目の前で立ち止まったと同時に……。 

女ボク2_3

貴也は、まるで子供が抱きかかえられて小便をしているような姿をとっていた。

「ふふっ……」

ペニスも金玉も、肛門までもが梢の眼前に晒されてしまっている。

自分で指示したとはいえ、あまりに滑稽な男の姿に梢は思わず吹き出してしまった。

「恥ずかしい格好になりましたね。でも、先輩にはお似合いですよ」

少女の言葉に呼応するように、ペニスがプルン、プルンと揺れ動く。

「ふふっ……こんなみっともないポーズとらされて、よく興奮できますね? 馬鹿みたいですよ」

嘲笑に感激しているかのように、金玉がキュンキュンと収縮する。

「チンポ剥き出し、金玉まる出し、肛門まる見え。変態3点セットをフル開帳、って感じ。うふふっ……」

もっと笑って欲しいと言わんばかりに、肛門がヒクヒクと痙攣する。

何も意識しなくても、自然と言葉が溢れ出してくる。

どう言えば男が屈服するかわかってしまう。

これが女の本能なのかもしれないと、梢は思った。

「ふんっ……」

男の哀れな光景をたっぷり見届けた梢は、つまらなそうに顎を上げて鼻を鳴らす。

そして……。

真っ白なスニーカーに包まれた足で、ビンビンに勃起したペニスを踏みつけにした。

ぎゅっ……。

「あぁ~~っ……!」

身も世もない声を上げて、貴也はこみ上げる快感に身を捩った。

「気持ちいいですか? 大事なチンポを下級生に踏んづけられて」

「あぁ、あぁぁ~~……!」

梢に見下ろされ、貴也は背骨の奥から得体の知れない熱が這い上がってくるのを感じていた。

「もっと強く踏んで欲しいって思ってるでしょ? リングの上で太ももで擦られたみたいに、激しく動かして欲しいって思ってるでしょ?」

足裏全体で円を描くようにして、梢は惨めな性器の感触を楽しむ。

「そん、なっ、あぁっ、違う、違うぅ……!」

「何が」

ぐりっ!

「違うん」

ぐにゅっ、ぐにっ!

「ですかねっ?」

ぐりぐりぐりぐりっ!

「うぁあぁああぁ~~~~っ……!」

「ふふっ……いま本当に先輩が思ってる事、当ててみましょうか?」

ぎゅっ、ぎゅっ……梢の足が、リズミカルに動き始める。

「『あぁ~、年下の女子にこんな格好させられて、恥ずかし~い。なのにチンポ勃起して興奮しちゃうぅ~、ミジメなのにチンポ勃っちゃうぅ~』……ふふっ、でしょ?」

確認を取るかの如く、梢は踵で金玉をコロコロと転がしてみせた。

「あぁっ、あぁ~~っ、あ~~~~っ……!」

「『あ~~ん、見られてる、あんな冷たい目でぇ~~、俺に憧れてたって言ってたのにぃ~……でもチンポ気持ちいい~、情けなぁ~い』……くすくす……」

梢のつま先が、肛門をトントンとノックする。

梢は犬を囲みに追いつめるかのように足で3点を責め上げながら、次々と羞恥を煽る台詞を貴也に浴びせかけてゆく。

快感の渦に翻弄されながら、貴也は次第にそれが本当に自らの心を言い当てられているような感覚に陥っていった。

「『女の子に負けるのが、こんなに気持ちいいなんてぇ~。こんなの味わったら、もう元に戻れないぃ~、何でも言う事聞くから、もっとイジメてぇ~、あぁあぁ~ん』……ですよね」

「あぁあぁ~~~~ん……!!」

今や貴也の喘ぎ声は、梢が浴びせた台詞をなぞるかのように情けない声色に変化していた。

貴也の明確な変化に、梢は満足げに肩をそびやかして足責めを続ける。

「うふふっ……やっとわかりましたか? 先輩は私に叩きのめされてマゾに目覚めちゃったんですよ」

「あぁぁあ~~~~ん、あんっ、あん~~っ!!」

「リングの上で意識が朦朧としてたから、思考だけが追いついてなかったんですね。とっくに心も身体も私に屈服してたのに」

「んうんっ! おぉああぁ~~~~んっ……!」

「大丈夫。ちゃんとこうやって駄目押しして、完全な変態マゾにしますから。私が先輩をマゾにしてあげたんですから、今度はちゃんと覚えておいてくださいね?」

梢はビクビク震えるペニスに烙印を押すように、靴底をグイグイ押し込んだ。

「あぁあぁ~~~~んっ、駄目、もうだめぇぇ~~っ!!」

その踏み込みに耐えられなくなった貴也が、媚びるような悲鳴をあげる。

「あらら、もう射精ですか」

「んあんっ! でちゃう、あぁああんっ、出ちゃう、もうイッちゃうぅ!」

「全く情けない人ですねぇ。リングの上でボコされたうえ、ちんぽこ踏まれてあっと言う間にノックアウトだなんて」

心底呆れた風にそう言うと、梢はその小さな足裏で我慢汁を滴らせたペニスをグリグリと踏みつけてゆく。

「じゃあイかせてあげましょうか。でもその前に命令しておきます」

「あぐぐぐぐぅ~~、あぁ~~ん、あんあんあぁ~~んっ!!」

「これからは、今日の出来事をオカズに毎日オナニーしなさい」

判決を下す裁判官のように、梢は絶対的な響きを含ませてそう言った。

「最初はちゃんと、私に負けた悔しさを噛み締めるんです。でも……いつの間にかちんぽこはフル勃起状態」

「ひっ! あんっ! あぁ~~んっ!」

「悔しがってたはずなのに、手が自然とポコチンを擦り始めちゃう」

「んあぁあぁ~~んっ! ひあっ、あんっ!」

「マゾオナニーの始まりです。悔しくて恥ずかしくて堪らないのに、手が止まらない」

「あ~~んっ! あんあんっ!」

「もう頭の中はマゾ妄想でいっぱい。はい、あっという間にドピュッ」

貴也の全身が、壊れた玩具のようにガタガタと痙攣し始める。

「そして最後に。汚い精液を出し終えたら、私の家の方角に向かって土下座しなさい。『梢様、マゾチンポ気持ち良くしてくれてありがとうございました』って感謝しながらね」

そして梢は、我慢汁に塗れた靴底を貴也に見せつけると……。

「ほら、射精しなさい」 

女ボク3

ズムッ!!

「あぐ、ひぐっ! ひあぁあぁ~~~~~~~~んっ!!」

無造作に振り下ろされた梢の足が、貴也の性器を踏みにじった。  

その瞬間、まるで時間が止まったかのように貴也の身体が固まり……靴底と腹に挟まれたペニスから、大量のねばついた精液が噴出した。

どぴゅうっ……びゅるるるっ、どぴゅぴゅっ、びゅうぅぅ ~~~~っ……。

白濁した液体は梢の顔の高さまで見事に噴き上り、無数の塊となって宙を舞う。

雨のような音を立てながらコンクリートの地面に降り注ぐ精液が、二人の周囲に次々と黒い染みを作り出していった……。


<3>

ペニスから最後の精液がトロリと漏れ出したのを見届けると、梢は憑き物が落ちたかのようにスッキリとした表情で囁いた。

「これでケジメがつけられました。ありがとうございました、先輩」

ひっくり返ったカエルのようなポーズで痙攣している哀れな男子を残して、少女は軽やかな足取りで校舎の外へと歩き出していった。

……彼への気持ちは消え失せた。自分でも驚くくらい。

……でも彼はこれから、私の事を思いだして毎日オナニーするだろう。

……私が彼を想い続けた時間と同じだけ、いや、それよりもずっと長く。

……私を想いながら一人で変態ポーズをとり、勃起したチンポを慰めるだけの一生を過ごすのだ。

沈んでゆく太陽を横目にしながら、梢はようやく自分の人生が新しいスタートを切ったことを実感していた。

大きく息を吸い込み、一気に吐き出す。

瑞々しい空気が、梢の体内を爽やかに一巡した。

……さようなら、先輩。

……さようなら、私の初恋——……。


女ボク部1 <完>